MCに呼び込まれ、多田監督、荻野さん、クレールさんが登壇し挨拶を終えると、まずはお二人のお仕事内容について伺い、続いて実際の制作資料を見ながらトークが繰り広げられました。
まず設定制作とはどのようなお仕事なのか伺うと、荻野さんは「どのアニメ作品にも大体1人か2人はいる役職です。アニメの画を描く前に、キャラクターやメカの設定画がまず作られるのですが、その設定画を作る前に、誰にどのようなデザインを作成してもらうのかを監督と共に脚本を読みがら決めて、各デザイナーに絵を描いてもらいます。そこから、実際に画面に映る色を決めるところまでの設定作りを進行させていただく役割です。」と説明。
続いてクレールさんは、3DCG制作とはどのような仕事かについて「みなさんご存知の通り、銀英伝はとてもメカが多い作品です。戦艦をはじめ、ミリタリーの車や銃等の本編に必要な設定の発注から完成まで管理していく仕事です。また3DCGにおいてはモデルの作成の管理と各エピソードのCGシーンの進行を担っています。3Dスタッフと打ち合わせをしたり、3Dカットのチェックを行い、監督のフィードバックがちゃんと反映されていくように管理していく仕事です。」と説明します。
続いて設定制作について、キャラクターの資料をスクリーンに映し出しながらトークが展開。まずは銀河帝国軍の大将・ケスラーの全身のラフ画を参考にしながら、制作工程を紐解いていきます。荻野さんは「まずは監督からのオーダーをもとに、こういう感じかなというラフ画をデザイナーさんに描いてもらいます。これは菊地洋子さんのデザインです(下図)。ここで大体の方針を決めますが、一発でOKになることもあれば、監督からのオーダーで微調整が入ることもあります」と話します。
続いてケスラーの表情ラフ画(下図)を見ながら荻野さんは「劇中でどのくらい表情の幅が出てくるかというのは、これを描いている段階でははっきり分からない場合もありますが、喜怒哀楽の最大幅で表情を描きます。最大級にびっくりしたらこのくらいとか、最大級に落ち込んだらこのくらいとか。その方がアニメーターも、演技の幅としてここまではやっていいんだ、OKなんだなっていうのが分かるので、一度このようなラフを起こしています。」と解説。
続いて、ケスラーの表情の決定稿を見ながら「先ほどのラフ画がOKになったら、次はそれを清書にしてもらう作業です。この清書も監督にチェックしてもらって、OKだったら各アニメーターに配布され、実際の作画に入るという流れです。」と、作画までの流れを説明しました。
さらに、先ほどのケスラーの全身ラフ画とは異なる憲兵総監服のラフ画(下図)も披露。荻野さんは「当初、ケスラーの衣装には普通の軍服の案があったのですが、彼は軍人ではなくて憲兵なので、宇宙で戦っている人たちとは少し差を出そうという案が出まして。軍服パターンの画も清書あたりまで進めつつ、別案としてこういうのも菊地さんに書いていただいて、最終的にこちらを採用しました。「激突」第一章の時に、馬に乗って出てくるみたいなことを想定していたので、騎馬隊っぽい感じにしようと話しました。」と衣装についての裏話を明かしました。このケスラーの服装について、多田監督は「基本的には、宇宙船の通路などを想定していない地上勤務の人の服装を作ってほしいという話をしました。」と振り返りました。
そして荻野さんは「あと、設定画は作られた後でいろんな人のところに渡って、それを元に画を描いてもらうので、襟をめくったらこうなるとか、細かいパーツの詳細が書かれているんです。実際の画面には映らないかもしれないですが、ここが見えちゃったらこういうことだよという細かい部分の解説でもあります。なので、最初にラフ画をもらった時にそういう情報が足りていないなと思ったら、我々の方でそういう情報を足してくださいっていうオーダーをすることもあります。」と話します。
続いて、ケスラーの色見本画像(下図)を見ながら荻野さんは「これが『色見本』と呼ばれる、色の設定ですね。実際に完成した映像で映るのは画像の左側 なのですが、こういう濃い黒やグレーだと、色を塗る人たちがパーツの分割がどこかがぱっと見た時に分かりづらいので、ここは別のパーツですよという区切りを明確にするために、変な色で塗っている参考があるんですよ(画像の右側)。パーツが多いとその分塗る色も多くなります。
「ノイエ銀英伝」は色数が多い方だと思います。軍服はパーツが多くなりがちなのに加え、会話劇が多く描かれる作品なので、止めの画で見た時も間がもつ状態を作り出します。」と本作ならではの特徴を明かしました。
続いてスクリーンに映し出されたのは、ガイエスブルク要塞の設定画。クレールさんは「ガイエスブルク要塞は前のシリーズでも出ていたのですが、今回の第二章ではワープして、第三章ではイゼルローン要塞と対決してと大活躍するので、エンジンなど色々なパーツを増やして改装していますね。流れとしてはこちら(※下図)が改装バージョンの設定です。全体の画像と、今後モデル化することも決まっていたので、細かく各パーツをたくさんの方に描いていただきました。」と話します。
この段階でガイエスブルク要塞についてどのようにオーダーされたかを聞かれると、多田監督は「自力で移動しなきゃいけないからエンジンがついているという設定で、そのエンジンをどうつけるか。元々ガイエスブルク要塞自体は一回出ているものですから、それをイゼルローン要塞攻略用に改装しています。元々の形を変えずに、後からつけるならどういう形かを考えて作ってもらいました。」と答えました。
続いてスクリーンにモデル画像(下図)が映し出され、クレールさんは「先ほどの設定を3D制作スタッフ側に渡して、モデルを作る作業に移ります。こちらも時間をかけて作ってくださいました。これはまだ色も何もついてない、素のガイエスブルク要塞です。前と後ろが出ているんですけど、後ろ側を見ていただくと先ほど出ていたエンジンが収納されています。収納されていくアニメーションも、実は3Dモデルの段階でモデラーさんに作っていただいています。全体の画だとあまり分からないのですが、エンジンはとんでもなくパーツが多くて、細かいです。」と解説。
多田監督は「モデリングは時間がかかる作業で、一個一個ワイヤーで形作っていくんですけど、ここまで細かいと本当に時間かかります。例えば、エンジンには吹き出し口みたいな小さいものがいっぱいついてるのですが、これもモデリングしていくと大変なので、原型は実を言うと、標準戦艦のエンジンをここに移植しました。」と説明します。続けてクレールさんが「私の作業においてはガイエスブルク要塞が主役で、本編でもかなり出てくるので、ここまで作った甲斐があったと本当に思います。設定デザイナーもモデラーも、作ってくださった皆様、本当に頑張ってくれました。」と話します。
次に下の画像を見ながら、クレールさんは「最終的にどういう見た目になるかを、美術さんに発注しました。先ほどのモデル画像をそのまま美術さんに渡して、こういうイメージボードを描いていただきました。こちらはイゼルローン回廊に登場した時の見た目になります。」と話します。
MCより、ガイエスブルク要塞自体の色味というのもボードで作るのですか?という問いに、クレールさんは「そうです。周りが流体金属になっているので、星を反射しているんです。今回美術ボードを頂いた時に、もう少し紫を残してほしいと監督からオーダーが来ていたので、そういう風に作っていただきました。」と答えます。補足として荻野さんが「イゼルローン要塞とガイエスブルク要塞は前のシリーズだと動き回らなかったので、そういう惑星として背景美術で描いていたんですよ。でも今回は動き回るので3Dで作ることに変えたので、画の最終的な見た目作りの指針にするために、まずは美術さんにボードを描いていただきました。」と話します。
次に下の画像を見てクレールさんは「これはワープ前にいるところ、紫宇宙ですね。3Dは流体金属というテクスチャーが、自動的に宇宙を反射する素材に設定しているで、黒宇宙に置いたら自動的に黒っぽい見た目になるという作りにしています。私自身3D制作は初めてでしたが、今後役に立つことをたくさん学べました。」と話します。
ガイエスブルク要塞 完成モデル
最後に荻野さんは「第二章を制作していた時期はまさにコロナ禍で、粛々と映像は作っていたものの、映画館が一時的に閉まってしまったり、作品が延期になったりしていました。作ってはいるけど果たしてこれが良い形で世に出るのかどうかという漠然とした不安を抱えたまま、作っていたのですが、おかげさまでこのような良い形で劇場でかけていただいて、皆さんに観ていただけているのは大変ありがたいことだなと思っています。第三章も5月13日から始まりますので、引き続き応援していただければと思っています。今日はありがとうございました。」とコメント。
クレールさんは「本日はお越しいただき本当にありがとうございました。今後も第二章の続きがどれくらい出るか分からないですけど、最後まで是非観ていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。」とメッセージを寄せました。
そして多田監督は「第三章がもうすぐ始まるということで、告知も込みで見所ありますよというお話をさせていただきましたが、とりあえずまだまだ続きを作らねばという感じで、私どもIGのスタッフ一同、作業に勤しんでおります。是非是非これからも、劇場に足を運んでいただけたらと思います。今日は本当にありがとうございました。」と挨拶し、本イベントは終了いたしました。